目には角膜と水晶体という2枚のレンズがあります。
外側の角膜のレンズパワーは一定ですが内側の水晶体は若いころはレンズパワーを変えてピントを合わせることも可能です。
年をとると老眼が進んだ上水晶体が濁り、視力低下、目の霞み・まぶしさ・眼鏡の度数が狂う・だぶって見えるなどの症状が出現します。
水晶体の周辺部がかなり濁っても視機能にあまり影響がありませんが、水晶体の中央部(瞳孔領)が少しでも濁ると視機能はかなり低下します。
紀元前800年頃:インドのスシュルタが、無麻酔で針で眼球を突き、水晶体を脱臼させ硝子体内に落下させました。
1800年以降:角膜の外側の結膜と強膜を切開し水晶体を摘出。近代的な眼科手術の幕開けです。
1949年:イギリス人リドレーが眼内レンズを発明。1967年にはアメリカ人ケルマンが超音波乳化吸引装置を発明。しかし安全性に諸問題を抱え、まだ普及に至りませんでした。
1960年代、冷凍法にて水晶体を吸い付けて全摘出し、術後は分厚い凸レンズの眼鏡。
1970年代:厚さ5μの水晶体の皮膜を残して水晶体の核を娩出し、この皮膜を利用して眼内レンズを固定。切開創の幅は11mm。(図1)核娩出の際に角膜内皮細胞や虹彩に多大な組織障害を生じ、かなりの術後炎症や術後乱視を生じました。
1980年代:超音波乳化吸引装置が進歩し普及しました。(図2)水晶体核片を分割して破砕し吸引除去し、眼内レンズを水晶体嚢に固定します。(図3)
切開創は6mm。その後折り畳み眼内レンズの発明(図4)で切開創は3mmとなり、小切開創白内障手術の幕開け。
眼内レンズの保険適応と高齢化社会の到来により手術症例数が爆発的に増加しました。
2000年代:切開創は3mm弱が主流に。手術の安全性が高まり、白内障手術は「水晶体再建手術」と呼ばれ、昔の「開眼手術」から「屈折矯正手術」へ大きく変貌を遂げました。現在国内で年間100万眼の水晶体再建術が実施されています。
ゆで卵を冷やしても生卵にはならないように、一度濁った水晶体はもう元には戻りません。
白内障の進行を遅らせる目薬も昔からありますが効果は不確実です。
欧米人はこういう目薬は使いません。
紫外線を浴びない、古い食用油などの過酸化脂質の摂取を控え、活性酸素を除去するような食物・ビタミン・サプリメントを摂取して若いころからアンチエイジングに努めるといいでしょう。
昔は見えなくなってから手術をしていました。(開眼手術)
最近では白内障手術の進歩(後述)により、上記の症状があれば術前視力1.0近辺でも手術をすることがあります。
一般的には目の霞みが強まってから手術をされて十分です。
完全に見えなくなってから手術を受けようとされますと
1) 水晶体が硬くなって手術が難しくなり合併症(後述)を起こしやすくなる。
2) 年齢をとられた分だけ全身的なリスク(高血圧・心臓病・喘息・脳卒中・糖尿病等)が高まる。
要介護なら手術や検査や通院に多大な労力。
認知症になれば局所麻酔での手術は困難。
術中の体動や振戦(パーキンソン病等で小刻みな震え)
血液抗凝固剤の使用で止血が困難。
血液抗凝固剤の術前中断で重篤な心原性脳梗塞の発症(1年生存率は50%)。
骨粗しょう症で脊椎湾曲し、手術台で体位保持が困難。
肝腎機能の低下で投薬制限。
小瞳孔眼(散瞳剤に反応せず瞳が術中に開かずに手術手技が困難に)。・・・等
3) 全く見えなくなって寝たきり状態で病院や施設に入院・入所されれば手術はおろか眼科を受診する機会すら失われることも有る。
・・・・といった事になりかねません。
90歳台で両眼白内障で全く見えない状態でありながら全身状態が悪く、内科主治医の手術許可が下りずに白内障手術を断念したケースもありました。
逆に比較的早期に手術を勧める例は
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1.多焦点眼内レンズ:本来近くも遠くも裸眼で見えるはずですが、「実際には近くも遠くもなんとか見えるけどイマイチ」の場合が多いようです。保険適用は無く全額自費(両眼で約90万円)ですから、「こんなはずではなかった。」というケースも有ります。夜間対向車のライトを見ると、光がにじんで見えます。(グレア)
2.非球面レンズ:球面収差による像の歪を解消。
3.乱視用レンズ:従来は近視・遠視の矯正のみに留まっていた白内障手術が乱視矯正も可能に。
4.黄色着色レンズ:紫外線をカットし,滲出性加齢黄班変性を予防。(図5)
5.折り畳みレンズ:昔は直径6mmのレンズを挿入するために6mmの切開創が必要でした。現在では大多数の眼科でアクリル製折り畳み眼内レンズが3mm弱の切開創で標準的に挿入されており、術後の炎症・医原性乱視が劇的に軽減し術後安静も軽減し、早期の視機能回復が可能となりました。
例えば、岩を砕く場合、削岩機を岩に強く「押し当て」て削岩機の先端の振動で岩を砕きます。
白内障手術の場合、適当な大きさに分割された水晶体核をポンプの陰圧で「吸いつけ」て、超音波の周波数(毎秒4万回以上) で振動する金属先端で破砕して除去します。
超音波の音波エネルギーではなく、金属先端の縦振動の機械的エネルギーが水晶体核に接して砕くのです。
「押し当て」と「吸いつけ」の違いこそあれ、白内障手術の場合、超音波乳化吸引装置で水晶体を細かく砕いて手術します。
図2をご覧ください。金属棒の周りにシリコン製の覆いが有り,その間隙から灌流液が眼内に流れ、眼球が虚脱しないように眼球内圧を一定に保ちます。
中空の金属棒は水晶体核片を陰圧で吸いつけ捕捉し、縦振動を加え削岩機の要領で砕いて乳化吸引します。
最新のマシーンは吸引圧・吸引流量・パワー等を細かくプログラム化し電子制御することにより、初心者の術者でさえも効率的で安全な手術が出来るようになりました。
手術合併症や術後炎症の発生がほぼ皆無に近づき術者のストレスは大幅に軽減しました。
心房細動や心臓弁膜症術後や脳梗塞の既往例等でワーファリン等の血液抗凝固剤を内科にて投与されている患者様が白内障手術や抜歯の際に一時的に抗凝固剤を中止することがありますが、これは大変危険です。
抗凝固剤の中断によってもし心原性脳梗塞を生じた場合の1年生存率は50%、これは悪性腫瘍並みに生命の危機に曝されることになるのです。
心原性脳梗塞は大きい血栓が飛んでいますので大きな血管が閉塞し広範囲に及んで高度の脳梗塞が生じるためです。
たとえ死を免れたとしても、片麻痺や言語障害や脳血管性認知症等の再起不能の要介護生活を強いられ、御本人はもちろん、ご家族も多大な労苦を強いられることになります。
当院では血液抗凝固剤使用中の患者様には抗凝固剤を中断せず内科医の指示通りに内服していただき、術中の眼内への出血が起こらない「角膜耳側切開」を採用して手術しております。
その結果患者様は手術当日も血液抗凝固剤を飲んでいただき、安全に手術を受けることができます。
血液抗凝固剤を御使用中の患者様は是非とも橋本眼科医院での安全な白内障手術をご検討ください。
人間のやることに100%の安全性はありません。
極まれですが以下のような合併症が考えられ、もしそれらが発生したときは迅速かつ適切な処置及び対応をいたします。
1) 後嚢破損による細菌性眼内炎・網膜剥離・・・水晶体は全部摘出せず水晶体の皮を一部分袋状に残しこのスペース内に眼内レンズを固定しますが、水晶体が硬い場合や水晶体の皮が薄い場合に袋(後嚢)が破れる事があります。
すると眼内レンズと網膜硝子体間の隔壁が損なわれ細菌感染や網膜剥離の発生頻度が10倍以上に高まります。
もしも感染や網膜剥離が発生したら迅速な網膜硝子体手術が必要です。
後嚢破損の当日には眼内レンズを挿入せず1〜2週間後に再手術をしてそこで眼内レンズを挿入するという事もあります。
仮に後嚢破損を生じても修復操作により十分な視力を得ることが出来ます。
2) 駆逐性出血・・・術前に網膜動脈瘤のある方が手術中眼圧がゼロになって動脈瘤が破裂した場合なかなか出血が止まりません。
傷口を閉じ眼圧で動脈瘤を圧迫止血し、後日再手術いたします。きわめて稀です。
3) 一過性眼圧上昇
4) 角膜障害
5) 術後乱視
6) ぶどう膜炎
7) 麻酔によるトラブル
8) 眼内レンズのズレ
9) 傷口が開く
10) 目の中に出血する・・・等です。
白内障手術は今から20年ほど前に劇的に進歩を遂げ、いまやほぼ完成された術式が確立しています。
安心して手術をお受けください。
例えば、
1) 折りたたみレンズの出現により直径6mmや6.5mmのレンズを2.8mmの切開創から挿入可能に。
2) 新時代に対応した新しい手術テクニックの出現。
3) 革新的超音波乳化吸引手術装置の出現により手術の安全性が向上し、前述した後嚢破損の頻度が激減。
4) 手術補助薬剤の開発。
5) 眼内レンズの素材やデザイン等の開発。・・・等です。
視力低下の原因が白内障だけならば術後の目標視力は1.0ですが、眼底出血・黄班変性症・視神経萎縮・網脈絡膜萎縮等の他の病気を合併してあると術後視力が頭打ちとなります。
主治医と十分ご相談ください。